日本における副業の歴史は、社会や経済の変化に伴って大きく変遷してきました。かつての日本では、副業は一般的に推奨されるものではなく、むしろ忌避される傾向がありました。しかし、近年では働き方の多様化や経済状況の変化により、副業は徐々に受け入れられつつあります。本記事では、日本における副業の歴史とその背景、そして現代に至るまでの変化について詳しく解説します。
1. 副業の起源と江戸時代の副業
日本における副業の歴史は、江戸時代まで遡ることができます。当時の農村社会では、農閑期において農民たちが副業を行うことが一般的でした。農業は季節に左右されるため、農閑期には収入源が乏しくなることが多かったのです。そのため、農民たちは籠作り、織物、製塩、漁業など、地域の特性に応じた副業を行うことで生計を立てていました。
1.1 農民の副業
江戸時代の農民は、年間を通じて安定した収入を得るために副業を行っていました。たとえば、東北地方では漁業や製塩が行われ、信州(現在の長野県)では養蚕や製糸業が盛んでした。また、紀伊半島では林業が副業として行われていました。これらの副業は、地域の伝統産業として根付くこともあり、今日まで続いているものもあります。
1.2 商人と武士の副業
また、商人や武士も副業を行うことがありました。商人は本業の商売以外に、金融業や不動産業などを副業として行うことがありました。一方、武士は俸禄(年貢)だけでは生活が厳しい場合、副業として農業や漁業、さらには文筆業を行うことがありました。特に江戸時代後期には、武士の中には藩の財政難から副業を奨励される者もおり、これが新たな産業の発展につながることもありました。
2. 明治から昭和初期にかけての副業
明治維新以降、日本は急速に近代化を進めました。この時期、農村から都市への人口移動が進む中で、副業の形態も大きく変化しました。
2.1 工業化と副業の変容
明治時代から昭和初期にかけて、日本は工業化が進展し、都市部では工場労働者が増加しました。しかし、農村部では依然として農業が主な産業であり、副業も重要な収入源として続けられていました。工業製品の普及により、農村でも家庭内工業が行われるようになり、特に繊維産業が盛んに行われました。この時期の副業は、家族全体で取り組むことが多く、地域社会に密着した形で行われました。
2.2 昭和初期の都市部における副業
都市部では、サラリーマン層が増加する中で、副業は次第に公には推奨されないものとなりました。特に大企業に勤める正社員は、企業への忠誠心を重視する風潮があり、副業を行うことは本業に対する不忠とみなされることがありました。しかし、生活費を補うために内職や小規模な商売を行う人々も存在しました。特に昭和恐慌の時期には、副業によって家計を支える家庭が少なくありませんでした。
3. 戦後日本と高度経済成長期の副業
第二次世界大戦後、日本は廃墟からの復興を目指し、高度経済成長期に突入します。この時期、副業に対する社会の認識は、ますます厳しくなりました。
3.1 経済成長と企業中心社会
高度経済成長期には、「企業戦士」としてのサラリーマン像が確立され、終身雇用や年功序列といった雇用慣行が定着しました。企業は従業員に対して、長時間労働や転勤などを通じて全身全霊を捧げることを期待しており、副業を行う余地はほとんどありませんでした。副業は公然と行うことが難しく、多くの企業が副業禁止規定を設けていました。
3.2 副業の影響と規制
この時期、副業は主に「不労所得」を得る手段として考えられるようになり、不動産投資や株式投資が一部の富裕層で行われました。しかし、これらは副業というよりも資産運用に近く、一般的な副業とは異なるものでした。企業中心の社会構造の中で、副業はほとんど認められず、家計を補うために行われる副業は、個人的なものに留まりました。
4. バブル崩壊後の副業と労働市場の変化
1980年代のバブル経済が崩壊すると、日本経済は長期にわたる停滞期に入りました。この経済的な不安定さが、労働市場や副業に対する認識を大きく変える要因となりました。
4.1 非正規雇用の増加と副業
1990年代以降、企業はコスト削減のために非正規雇用を増やし、派遣社員や契約社員の割合が増加しました。これにより、収入が不安定な労働者が増え、生活費を補うために副業を行う人々が増加しました。インターネットの普及もこの傾向を加速させ、フリーランスや個人事業主としての活動が広がりました。
4.2 副業解禁の流れ
2000年代後半から、政府や企業は「働き方改革」の一環として副業の解禁を推進し始めました。特に2018年、厚生労働省が「モデル就業規則」を改訂し、副業・兼業を原則容認する方針を打ち出したことは画期的でした。これにより、多くの企業が副業禁止規定を見直し、従業員が副業を行うことが認められるようになりました。
5. 現代における副業の展望
今日、副業は単なる収入補助手段にとどまらず、キャリア形成や自己実現の手段として注目されています。コロナ禍によるリモートワークの普及も、副業を推進する要因の一つとなりました。
5.1 多様な副業の形態
現代の副業には、多くの形態があります。例えば、ウェブライター、プログラマー、デザイナー、アフィリエイター、さらにはYouTuberやインフルエンサーといった新しい職種も副業として人気があります。また、クラウドソーシングプラットフォームを活用した副業も増加しています。これにより、自分のスキルや興味に合った副業を選びやすくなっています。
5.2 副業と法規制の課題
一方で、副業が広がる中で法規制や税務面での課題も存在します。たとえば、副業に伴う所得税や社会保険料の負担、副業先での労働条件の確保などが課題となっています。政府や企業は、これらの課題に対応するための法整備や制度設計が求められています。
まとめ
日本における副業の歴史は、社会の経済状況や働き方の変化と密接に関わっています。かつて副業は生活のための手段として行われていましたが、現代ではキャリアの一つとして当たり前に行われてきています。
コメントを残す